「ご利用者主義」の理念を軸に介護ケアの質を高める―社会医療法人頌徳会 介護老人保健施設ソルヴィラージュさん
2024.11.15
共創ストーリー今回取材に伺ったのは、大阪府堺市にある介護老人保健施設ソルヴィラージュさんです。ソルヴィラージュさんの母体である社会医療法人 頌徳会の創業40年の節目にスタートしたDX推進の裏側には、グループ全体で掲げる「ご利用者主義」への強い想いがありました。医療・介護の多職種連携や生産性向上、そして現場におけるコミュニケーションの変革をテーマにDXを推進された総務部長の日野安起子様と事務長の齋藤雅彦様に、導入当時からの軌跡と、頌徳会が大切にするケアを支える現場に対する拘りと信念についてお話いただきました。
社会医療法人 頌徳会 介護老人保健施設 ソルヴィラージュ
1996年開設。75室150床を有し、医療や介護、リハビリ等多職種が連携し、介護が必要な方々が自立した日常生活を送れるよう支援を行う。高い在宅復帰率を誇る「在宅復帰・在宅療養支援機能加算型老健」*として、短期集中リハ、生活リハに注力し、退所前訪問やご家族への介助指導を通じて不安を取り除くサポートをしている。
*在宅復帰・在宅療養支援機能加算型老健とは、在宅復帰率が30%超えていること、ベッドの回転数が5%以上であること、要介護度4または5の利用者が35%以上であること等の条件を満たした老健施設。
< Profile >
社会医療法人頌徳会 常務理事 総務部長
日野 安起子さん
1994年より常務理事としてグループの事業拡大に力を注ぐ。介護老人保健施設や特別養護老人ホームなど数々の新施設の創設や法人組織の整備、構造改革などを手掛け、法人の安定性、永続性、信頼性の向上を目指しグループ運営の中枢を担う。
日野病院 介護老人保健施設 ソルヴィラージュ 事務長
齋藤 雅彦さん
商社に勤めた後、医療福祉の業界に魅力を感じ2015年に社会医療法人 頌徳会に参画。異業種での経験を活かした視点で、職員の生産性や働きやすさ向上に向けた施設の管理を担う。
―2019年よりDX推進の検討が進み、2021年には医療・介護のシームレスな電子カルテが導入されています。コロナ渦で戦略的投資を進めた背景や思いを教えてください。
当グループは2019年に創業40年を迎え、ICT化に向けて戦略的な投資をスタートしました。「これからの40年」をキーワードに、医療・介護現場のコミュニケーションの変革、ICTによる多職種連携強化と、理事長の日野 頌三が創業以来大切にしてきた「ご利用者主義」の体現、さらには生産性向上と職員の働きがいの両立を必ず実現させたいと考えたのです。特に、「人材獲得」「人材育成」が重要になる中、実際の採用活動を通じて、少子化による人材不足への危機感を肌で感じていたこともあり、現場のICT化によるDXこそが、今後の人材獲得のポイントになると考えていました。一方、医療福祉業界においてDXがまだ主流ではなかったことや、コロナ渦で業務が混乱する中、新たな業務変革に対する社内の風当りが強かったことも事実でした。しかし、「ご利用者主義」を現場で体現していくため、医療、看護、介護、リハビリテーション等の多職種連携や、そのために必要な医療・介護のシームレスな情報連携を成し遂げるのだという強い思いが、グループ全体を突き動かしました。2021年に、グループ内の医療から介護までを一元化できる電子カルテの導入を開始して以降、インカムやスマートフォンを一人一台支給し、見守り支援システムやベッドサイド情報端末、さらにはタブレットを活用した問診システム、電子契約書等も取り入れました。
―多職種連携の入口である電子カルテを医療から介護にも展開するにあたり、現場ではその活用にどのようなハードルがありましたか?
介護現場では全てを紙で記録していたため、初めての電子化には混乱が起こりましたが、まずは電子機器に慣れるところから始まりました。IT担当者のサポートのもと、何とか導入が進んだものの、現場で習慣化されたものを変えていくのは簡単なことではなく、今も努力を続けています。一方で、DX推進においては、病院や高齢者施設を経験した看護師長が設計フェーズから参画し、ご利用者視点で医療や介護現場で必要な情報や困りごと、現場にしか分からない課題を細やかに吸い上げてくれていたため、事前に運用に反映できた事はとても良かったと感じています。現場の看護師からも、以前より介護の情報がタイムリーに理解でき、連携が深まったという声が多く届いています。
―医療と介護が情報連携をしたたことで、一番大きな変化は何でしたか?
まず、これまで人がしていた業務をシステム化できたことで、業務時間が大幅に圧縮されました。例えば、ご利用者の情報を確認したい場合、これまでは、同じグループ内であっても看護は看護、介護は介護、リハビリはリハビリ、事務は事務と、ご利用者の情報を別々に作成・管理していましたので、個別に情報を見に行く必要がありました。医療と介護を電子カルテ化し、利用者様のIDを一つにしたことで、情報の入口が一元化され、ご利用者が治療やケアをどこで受けても、リアルタイムで最新の情報を確認できるようになりました。これにより、情報確認の時間は従来の30分の1へと大きく短縮され、職員がご利用者へのケアの時間を増やすことができるようになったのは大きな成果だと実感しています。
また、質の高いケアの提供や、それに直結する職員の安心感も高まりました。医療や介護の領域では入院期間が長期に渡ることもありますので、電子カルテ一つをとっても、ご利用者に関するシームレスな情報共有はものすごく大切です。例えば、夜間に関連施設から搬送されてきた方の情報は、救急隊や現場担当者に聞かなくても電子カルテを見ればドクターがすぐに状況把握できるようになりました。患者さんへの対応がスピーディーになるだけではなく、伝達ミスの発生を防ぎ安心感にも繋がります。今後も、省力化できるものは徹底的に洗い出し、捻出できた時間をご利用者の満足度を高める活動や職員の人材育成に費やしていきたいです。
―介護老人保健施設ソルヴィラージュの施設内ではICT導入の利便性のみならず、居心地の良さを感じます。どのような工夫をされていますか?
理念にもある通り、ご利用者の「生命(いのち)の花を咲かせる」ことが我々の使命です。DX推進による省力化、コミュニケーションの変革、生産性向上と働きがいの両立は、全て「ご利用者主義」の理念実現に近づけるための活動です。施設の中をご覧いただくと分かりますが、ご利用者が過ごす空間が明るいこと、そして清潔であることを徹底しています。廊下に寝転がることができるくらいの衛生度を保っています。クローゼット一つを取っても、ご利用者が送った生活や時代背景をイメージし、洋服はハンガー式ではなく、畳んで収納できるスタイルに設計しています。また、居室からの眺めや窓の大きさにも拘り、ご利用者が過ごしやすいような工夫を至るところに施しています。さらに、ご利用者が集う食堂や職員が集まるステーション*は、可能な限り柱を取り除いて開放的な造りに設計から見直しました。ご利用者や職員同士の様子が一目で分かることにより、職員間のコミュニケーションが活発であるのも当施設の特徴かもしれません。つまり、介護は「現場」が全てで、職員が働きやすい環境を整えることこそがご利用者の安心やケアの質に直結します。「ご利用者主義」の理念を常に大切にし、これからも引き続き進化していきます。
*:医療スタッフが診療事務処理、調査研究、教育等を行うスペースのこと。
介護職員の橋本さんと渋川さんに聞く、現場でのDX運用と利用者様への思い
職員全員で、利用者様のために「人」のぬくもりを伝えるケアを
看護介護課 主任 介護職員 橋本 舞さん
介護職として3年目を迎えた頃、「看取り」に拘りその知識を増やして成長したいという思いを持って転職先を探していたところ、当施設に出会いました。スタッフ同士のコミュニケーションが活発で、これまでの経験や知識、年齢、担当領域に関係なく意見が尊重され、その人が持つ能力を最大限活かす機会が多いのが魅力です。介護職だから他の領域は知らなくていい、という考えではなく、看護の知識も教えてくれる上、手厚いケアのためにできる事は何か、自分はこういうケアをしたい、という会話が職員間で自然に交わされています。「ご利用者主義」という同じ目線で高め合える関係性が心地良く、あっという間に2年が経ちました。
私が担当する看取りフロアでは、ご利用者のバイタルや血圧、体温、酸素濃度等、些細な変化を見逃さないように丁寧に観察していかなければなりません。終末期が近付くと、心拍数が弱まり、睡眠時間が長くなる等の傾向が見られますが、介護職は聴診器を当てることができないため、スマートベッドシステム(パラマウント社製)でデータが可視化されると目の前に居なくてもすぐに判断が出来ます。モニターやスマホで可視化されたご利用者の状態を見守ることができると、「次に訪室した時にお亡くなりになっているかもしれない」という不安を抱えることなく、業務に集中できます。そのデータに変化が現れた時は、すぐに訪室し、手を握り、話しかけ、痛みがあればさすり、一番心が安らぐ人の温もりを伝えるケアをとても大切にしています。
現場での運用がケアの質向上の鍵となる
看護介護課 主任 介護職員 渋川 拓真さん
今年で介護職に就いて12年目になりますが、前職の有料老人ホームを含め主に紙での記録を行ってきましたので、ケアの中でICT機器に触れたのは当施設が初めてでした。はじめは使いこなせず、ついノートパソコンや手書きでの記録等、慣れている方法を取ってしまうことがあったのですが、短時間で職員間の密な連携が必要となった時に、ICT機器の便利さと重要性に気付きました。例えば、これまでは感染症の患者様が入居されている居室への入退室では都度、ガウンを着脱しなければいけないのですが、居室でバイタルや体温のデータを計測し、モバイルでカルテ送信までできるので他の職員やご利用者と接触するリスクも、ガウン着脱の煩わしさもありません。ご利用者のベッドサイドでデータの記録ができるタブレットや、離れている職員と即座に連絡を取ることができるインカムもケアの質を高めたり、業務の効率化に繋がっていると感じています。一方、職員によっては、電子機器に苦手意識がある、新しいことを覚えることに抵抗がある、という人もいますし、ケアの中で自動化せずに手間をかけることに喜びを感じる人もいます。職員一人ひとりがケアの中でICT機器のメリットを感じてもらえるように、まずは私自身がICTの利便性を現場に伝え、運用していけるようにリードしていきたいです。これが、ご利用者目線でケアを行う上での鍵になると考えています。