【介護職×プロボクサーという生き方】2つの道から広がる無限の可能性を信じたい—大田ナーシングホーム翔裕園 横山葵海さん

  • 2024.11.08

    共創ストーリー
  • 介護業界の人手不足が課題となる中、介護職とプロボクサーという2つの顔を持つ横山葵海さんを取材するため、東京都大田区にある大田ナーシングホーム翔裕園を訪問してきました。そこには、強靭な肉体と精神という自身の強みを活かし、それぞれの道を全力で進む横山さんの姿と、何事にも一生懸命に取り組む横山さんだからこそ引き出せる利用者さんの笑顔がありました。

    やりたいことを諦めず、自身の能力を伸ばしながら未開拓のルートを切り開いていく横山さんの姿は、道を一つに決めることが正解ではない、と私たち一人一人の前に広がる無限の可能性を信じた先にある新しい生き方を教えてくれたような気がしました。

    自分の信念を貫き、夢に向かってひたむきに歩み続ける挑戦のストーリーをぜひご覧ください。

    ―Profile
    横山葵海(よこやま あおい)
    3歳から始めた極真空手では小学3,4,5年生と全国大会3連覇した後、中学1年生からボクシングを始め、大学時代にはバンタム級で全日本チャンピオンとして頂点に立った経験を持つ。大学卒業後はプロに転向し、ボクシングジムでのフィットネストレーナーのほか、大学時代に取得した介護福祉士の資格を活かし、2024年6月から介護老人保健施設、大田ナーシングホーム翔裕園で利用者さんのケアを行っている。


    ―医療福祉領域とのご縁は幼少時代からと伺いました。ボクシングと並行して介護職に就こうと思われたのは何故ですか?

    母と姉が看護系の仕事に就いていたこともあり、幼少期から福祉は私にとって身近なものでした。大学4年生の時に介護福祉士の資格を取得し、アルバイトで介護施設に勤務した経験から、「ボクシングの他に職に就くとしたら介護職だろう」と自然に思うようになっていました。大学卒業後、プロとしてボクシングに打ち込める貴重な機会を手にすることができましたが、常に怪我と隣り合わせで、成功できるのは一握りの選手というとても厳しい世界だということも理解しています。ボクシングに専念したい思いもありましたが、ボクシングと介護それぞれに向き合い様々な経験を積むことが、必ず自分の人生の糧となると考え、介護の世界に入ることを決意しました。

    ―介護職として2度目のスタートを切られました。ずばり横山さんが思う介護職の醍醐味や難しいと感じる事を教えてください。

    介護の醍醐味は、利用者さんとの触れあいやコミュニケーションです。利用者さんから、これまで歩んできた人生のお話を聞くことや、家族のように接してくれること、「ありがとう」「助かったよ」等の温かい言葉をいただくことは、いつも私の励みになっています。

    介護職としての経験はまだまだ浅く、利用者さんの気持ちを汲み取ることが難しい場面もありますが、他の職員さんから助けてもらいながら、日々利用者さんがどんなサポートを求めているかを理解することに努めています。

    当施設の場合、日によって利用者さんが入れ替わるので、利用者さんが食事の際に座る位置も毎日変わります。名前と顔を何とか一致させようと、隙間時間で名簿とにらめっこをしていますが、100名を超える利用者さんの身体的特徴や性格、好み等を記憶するのはなかなか難しいです。しかし、利用者さんにとって大切なことだと思うので、ここだけは絶対に手を抜かないようにしています。

    ―ボクシングで得たご自身の強みである「身体との向き合い方」を介護にどう活かしているか、介護職としての経験がボクシングにどんな影響を与えているかについて、お話ください。

    当介護老人保健施設では、介護を必要とする利用者さんの自立を支援し、在宅復帰に向けたリハビリ等のサポートを行っています。そのため、体操やダンス等、身体を動かす際に一人一人の身体の特徴を観察し、動きをサポートすることは、利用者さんが怪我なく回復に向かうために重要です。そうした場面で、これまで研究してきた身体の使い方やメンテナンス方法の知識を活用して在宅復帰のご支援ができた時は、この上ない喜びとやりがいにつながっています。

    介護職としての日々は、ボクサーとしての自分に新しいエネルギーを与えてくれています。利用者さんが「次の試合はいつ?」「応援しているよ!」と熱心に声援を送ってくださる度に、よし頑張ろう!と気持ち新たにボクシングに向き合うことができています。

    ―横山さんの今後の目標を教えてください。

    ボクサーとして世界チャンピオンになることです。プロとしてリングに立つ以上、毎日の練習から「今日はこのくらいでいいや…」という考えは通じないので、常に自分に勝つことを心がけています。私の活躍が施設の方々に力を与えることにもなると思うと、皆さんの期待に応えられるよう頑張りたいという気持ちが倍増します。いつか、在宅復帰された利用者さんや職員の方々を会場に招待して活躍する姿を見せられるよう、一日一日を大事に、何事にも手を抜くことなく全力で、挑戦を続けていきます。

    利用者さんの応援が何よりも励みになると話す横山さん

    介護職は天職 ―利用者のためになる全てのことを吸収したい

    大田ナーシングホーム翔裕園 副主任 三上 英恵さん

    ―三上さんが介護職に携わったきっかけを教えてください。

    今から10年以上前、勤めていた飲食店が閉まる関係で仕事を探さなくてはなりませんでした。しかし、当時私は子どもが小さく働ける時間が制限されていたため、なかなか希望の条件に合う求人が見つかりませんでした。そんな時に、公共職業安定所から紹介されたのが近隣の介護施設での仕事でした。それまでは介護職という道は考えたこともなかったのですが、いざやってみるととても楽しくて、時間があっという間に過ぎていったのです。数日間のアルバイトで「介護職は天職だ」と感じた私は、すぐに介護施設への入社を決めました。入社の3か月後には介護に必要な研修を受け、利用者さんにより良いサービスを提供したいという思いから介護福祉士やケアマネージャーのほか、認知症介助士や口腔ケア推進士、レクレーション介助士等、取得した資格は多岐にわたります。また、地域で開催されている認知症サポートや口腔ケアの講習会に参加する等、仕入れたい知識には制限がありません。

    ―介護職に就かれて10年以上になる三上さんにとって、若手の介護職員から得られる発見はありますか?

    若手の職員に対しては、自分たちの世代の常識を押し付けないようにしています。私たちが持っていない感性を吸収し、ケアに取り入れていきたいと考えています。実は、若い職員から学ぼうとするのは私たちベテラン職員だけではありません。利用者さんも若い人達から何かを学び感性を感じ取ろうとされます。カラオケが好きな利用者さんは若者の間で流行っている歌を覚えて披露したり、若手の職員を自分の孫と重ねて共通の話題を見つけようとしたり、家族のように接する方も多いです。楽しげに交流されている姿を見ると、若い人の存在は色々な側面で良い影響があると実感しています。

    ―三上さんが思う介護職の楽しさ、やりがいとはなんでしょうか。

    介護現場では、日々色々な事が起こり、一瞬一瞬を切り取れば大変な時もありますが、それも含めて同じ日が一日たりともないというところが、介護職の面白さだと思います。私の場合、一般的に大変と思われることが多い排泄や身体介助等の作業も苦になりません。利用者さんのことを思って「次はこういうイベントを企画しよう」「こういうレクリエーションを取り入れよう」と悩み、考えたその結果に出会える利用者さんの笑顔は、私のやりがいです。

    ―介護職としての横山さんは三上さんにはどのように映っていますか?

    横山さんには、介護職にとても重要な要素である「傾聴力」があります。利用者さんの中には、新任の職員に対して警戒心や優位に立とうとする気持ちから、避けたり突っぱねたりしてしまう高齢者の方が一定数いらっしゃいます。しかし、横山さんは利用者さんからの受け入れがとても早く、利用者さんの輪の中にすっと入っていくんです。これは、横山さんが利用者さんの言葉を真摯に受け止め、理解しようとしている気持ちが伝わっているからなのだろうと思います。また、横山さんが持っている「観察力」こそ、マニュアル通りにかないことが多い介護の仕事においてとても頼もしい能力だと思います。将来的には、普段ボクサーとして身体を動かしている経験を活かして、体操のレッスン等をしてもらいたいですね。

    ―プロボクサーでもある横山さんは、施設の皆さんにとってどんな存在なのでしょうか。

    プロボクサーの横山さんは、施設にいる全員のモチベーションになっています。普段の柔和な雰囲気から、ボクサーとしての横山さんを想像できなかったので、プロ初戦の中継で、リング上の闘志に溢れた横山さんの姿を観た時は本当に驚きました。初戦を勝利で収めた横山さんの祝賀会では、参加した利用者さんたちの表情は活力に満ちていましたね。施設の全員が横山さんから力をもらっているので、私たちも横山さんの「世界チャンピオンになる」という夢を全力で応援していきたいと思います。

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