アピアランスケアで患者様一人一人の気持ちに寄り添う治療を-アピアランスビューティクリニック®︎院長 堀口 和美先生
2024.05.07
共創ストーリーその人らしい人生を送るお手伝いがしたい
アピアランスビューティクリニック®︎
近年、日本の医療業界においてアピアランスケア※1に対する取り組みが推進されるようになってきました。しかしながら、日本全体におけるアピアランスケアの認知度やがん患者の方々への配慮はまだ十分ではありません。アピアランスビューティクリニックでは「その人らしい美しさ」をコンセプトに、がん患者の方に対する心身のケアをはじめとし、外見に悩む全ての方がなりたい自分に近づくための治療を行っています。患者様一人一人の人生に寄り添うアピアランスケアへの想い、そして医療業界の発展を目指す今後のビジョンを院長の堀口和美先生に伺いました。
※1 がんとその治療によって外見の変化が生じる患者さんに対して、身体的問題・心理的問題・社会的問題の3つの問題をアセスメントし、医学的・整容的・心理的・社会的手段を用いて、外見の変化から生じる患者の苦痛を緩和することによりクオリティ・オブ・ライフを改善する医療者のアプローチのこと。
-Profile
堀口 和美(ほりぐち かずみ)
地元である熊本県で一般外科医として外科の基礎を学んだ後、都立駒込病院の乳腺外科で、延べ94,000例の診療と8,500例の外科手術を執刀し現場経験を積んだ。多くのがん患者との出会いをきっかけにアピアランスケアの重要性に気付き、患者の気持ちに寄り添った医療を提供したいと2020年アピアランスビューティクリニックを開院。
-乳腺外科医としてのこれまでのキャリアを教えてください。
医学部6年目の臨床実習で全ての科を経験した際に、患者様の努力で改善できることに加えて更なる治療をして差し上げられる「外科」に魅力を感じて外科医の道に進むことを決意しました。卒業後5年間は医局に所属して診療や外科手術に奔走していましたが、知識を深めるために大学院に進みたいと思っていた時に国内トップレベルの乳腺外科治療を提供する都立駒込病院乳腺外科とのご縁をいただきました。最先端の医療に触れたことで「この環境でもっと学びたい」という気持ちが大きくなり、以来東京で乳腺外科医として、延べ94,000例の外来診療と約8,500例の手術を行ってきました。多くの乳がん患者様と向き合う中で、私はがん治療においてとても大事な要素に気付きました。それが、がん患者様を心身共に支援する、というアピアランスケアの根幹となる視点でした。
-堀口先生がアピアランスケアの重要性に気付かれたきっかけは何だったのでしょうか。
かなり進行したがんを患っていたある患者様に、「私の乳がんを治してくれてありがとう。でも先生は私の人生を台無しにしたんですよ。」と言われたのです。抗がん剤治療や乳房全摘、放射線治療などの治療に耐え、長期にわたるホルモン療法を経て、再発なく経過観察に移行することになった時でした。「これまでの治療と患者様の努力が報われてよかった」と安堵していた私は、まるで雷に撃たれたような衝撃を受けました。治療により髪の毛が抜け、肌が黒ずみ、乳房を失ってしまうことは、美しさを保ちたい女性にとって、人生そのものを台無しにするほど耐えがたいことだったのです。命を救うため、信念を持ってこれまで進めてきた治療だけでは、患者様の気持ちや人生に寄り添う視点が不十分であり、このままでは、患者様の心の底からの満足にはつながらないという事実に直面しました。そんな時に出会ったのが、まさにアピアランスケアでした。アピアランスケアは、「がんやその治療に伴う外見変化に起因する身体・心理・社会的な困難に直面している患者とその家族に対し、診断時からの包括的なアセスメントに基づき、多職種で支援する医療者のアプローチ」と定義※2されており、これこそが私がやっていきたい治療だ!と確信しました。
※2 国立がん研究センター中央病院 「アピアランス(外見)ケアとは?」引用
-アピアランスケアに注力した「アピアランスビューティクリニック」を2020年に開業されました。開業までの道のりはどのようなものでしたか。
アピアランスケアの道に進むと決めてすぐに開業を考えていたわけではなく、都立駒込病院で有志を募り、治療からケアまでをワンストップで行えるアピアランスケアセンターをつくることを目標に、浸透活動を行っていました。しかし、公の医療機関であり、保険診療のみが行われている都立病院では、なかなかスムーズに進まず、自分が理想とする医療を患者様に提供するために開業を決意しました。美容の知識と経験を習得するところからのスタートでしたので、美容クリニックで様々な美容医療の技術を学びながら開業準備を進めました。2020年にアピアランスビューティクリニックをスタートさせ、がん患者の方もそうでない方も、その人らしい美しさを追求できるケアを信条に患者様と向き合っています。がんにかかりたくてかかる患者様はいません。でも、がんにかかった患者様は皆さま、がん治療に前向きに取り組んでいらっしゃいます。だからこそ、新しい考え方や発見、これまでとは違う景色、知らなかったご自身等、がんにかかったからこそ知ることができた世界をアピアランスケアによって患者様にお届けしていきたいです。
-堀口先生は、2023年に医療福祉の人材サービスを展開する株式会社トライトのコーポレートアドバイザーに就任されています。がん治療やアピアランスケアとはかけ離れた領域となりますが、参画された理由を教えてください。
これまでの自身の経験を振り返ると、私の人生は家族や同僚、そして患者様等たくさんの人との出会いによってできていると感じます。この世の中で何が宝物かと言ったら、まさに人ではないでしょうか。そんな宝物をつなぎ、ご縁をつくりだしていく人材業は素晴らしいものだと考え、トライトへの参画を決めました。私がこれまで培ってきた経験や知識を活かし、医療福祉業界の発展において重要な役割を担うトライトの皆さんの力になりたいと思っています。
-今後、医療業界でアピアランスケアに対する取り組みがより促進されれば、世の中の認知も広がってくると期待します。堀口先生が描く今後のビジョンを教えてください。
がんにかかった瞬間からアピアランスケアが始まります。ただ、海外と比べると日本のアピアランスケアは遅れを取っていて、まだまだ認知も低い現状があります。欧米諸国には、そもそもアピアランスケアという言葉自体が存在しません。ウィッグを購入する際の補償やお肌のケアはがん治療の一環であり、治療における重要な一部として認識され、行われているのです。がんの治療が外見にどんな影響を及ぼすか、また外見が変わることが患者様の内面にどのような変化をもたらすか等を、日本の皆さんにも広く知ってほしいです。外見は内面の一番外側にあるもので、その人の心の中を如実に表します。がんの診断を受けた患者様は、ただでさえ精神的に苦しい状況の中で、治療によって見た目の変化が起こってしまうのは非常につらいことだと思います。アピアランスケアが標準的な選択肢として認知され、がん患者様が安心して治療を受けられるような世の中になるといいなと思いますし、質の良いアピアランスケアが提供できるよう医療業界全体の成熟も後押しできたらと考えています。