介護事業の明日を変えることが、日本の希望につながる-株式会社リールステージ 中山 久雄さん

  • 2023.07.01

    共創ストーリー
  • 西日本を中心に介護事業等を運営する株式会社リールステージは、施設入居者の就労支援事業「あをに工房」を展開し、「生きがい」「やりがい」「働きがい」づくりにも取り組まれています。代表取締役の中山久雄様は、大手石油会社や外資系製造業でマーケティングや事業企画等を経験した後、介護業界へ参入。超高齢化が進む日本社会の課題解決に向けて、共創を軸に挑戦する新しい介護の形について取材しました。

    —Profile
    中山 久雄(なかやま ひさお)
    2001年大阪外国語大学卒業後、出光興産へ入社。化学品の国内・海外営業及び事業企画、海外マーケティングに従事した後、石油化学業界の外資系企業にてグローバル市場での事業企画を経験。2016年、父が友人と共同経営していた介護事業会社を事業承継し、2019年代表取締役に就任、同年4月高齢者就労事業を目的にあをに工房を設立。2023年、一般社団法人全国介護事業者連盟奈良県支部支部長就任。

    外から日本を見てきた経験をもとに、日本の介護の未来を照らす

    ―中山社長が介護業界に携わったきっかけを教えてください。

    リールステージは、介護保険制度が施工された2000年に鍼灸接骨院をやっていた父がデイサービスを開設したのが始まりです。当時、私は出光興産で海外事業やマーケティングに従事し、その後も石油化学業界の外資系企業での事業企画に参画していたため、地元に帰ることは殆ど考えていませんでした。一方、父が経営していた介護業界では、終身雇用がまだまだ残っていた時代にも関わらず、離職率は高く、働く現場の課題が大きいと感じていました。「このままの日本を子どもや孫世代に残してはいけない」という強い危機感に加えて、「介護サービスを誰もが安心して使える社会インフラにしていきたい」という想いが強まり、地元の奈良に戻って父の事業を手伝うことを決断しました。

    ―まず、何から着手しましたか?

    まず、顧客満足度と従業員満足度の追求、そのために必要な理念の浸透などをしっかり運営に盛り込むことを進めました。これは、15年以上にわたり出光興産で学んだ仕事の核となる考えであり、このポリシーを自社に取り入れることで、離職率の改善は勿論、企業としてお客様や業界全体に提供する価値が高まると確信しました。また、利用者様の満足度に加えて、介護サービスの持続的な活用と経済性の確保という観点から、新たな仕組みが必要だと考えました。利用者様の中には、生活費に苦労されている方も少なくありません。介護人生が10年と言われている中、どうすれば利用者様の「生きがい」と「経済性」を両立できるのかを悩みました。そこで考えついたのが、高齢者就労施設の「あをに工房」でした。

    「生産性」という日本の課題を解決することが、多くの人の未来を変えていく

    ―「あをに工房」を設立した当初の想いを詳しく教えてください。

    当時、「日本の生産性を高めたい」というのが私のテーマでした。ある経営者育成プロジェクトで、「どんな世界観を作りたいのか」という議論していた際、国内で約4,000万人いる65歳から80歳のアクティブシニアに活躍いただく世界観が作れないか、と考えました。まず着目したのは、介護を受けている利用者様たちの「生きがい」「やりがい」「働きがい」です。利用者様たちに雇用機会をつくるという単純な目的だけではなく、介護施設経営者として提供できる一つのサービスとして、日本の文化でもある「着物ほどき」から着手しました。

    ―「あをに工房」で利用者様にどのような変化が起こりましたか?

    「あをに工房」を始めてすぐに、利用者様と当社職員の両方に変化が起こりました。利用者様の中には、認知症の症状が強く出ている方がいますが、「あをに工房」の仕事を持ってくる職員の名前だけは憶えてくれるようになりました。また、介護を拒否されていた利用者様が徐々に介護を受け入れるという変化も起きました。さらに、思うように手先が動かなかった利用者様が、徐々に作業できるようになる頼もしい進化も見られました。もっと感動したことは、「あをに工房」で出た報酬で職員にプレゼントを買ってくれた方もいらっしゃったことです。収益性が苦しく、一時的に「あをに工房」を縮小したこともありましたが、「頼むからやらせてほしい」という現場の熱い想いもあり、職員のモチベーションや利用者様の身体的な効果、心理的変化に結びついていることに気づき、これは是非続けるべきと決意しました。「あをに工房」は、今後も完成度をさらに高めてブランド化するなど、次のステージへ進化させていきたい夢があります。

    変化し続ける社会の中で、介護施設だからできること

    ―中山社長が描く介護業界の未来とはどのようなものですか?その実現に向けて必要なことがあれば教えてください。

    医療福祉業界は、保育、教育、介護等の機能が縦割りとなっています。介護業界だけを見ても、それぞれの事業が業界内で完結しがちで、他職種の技術や専門的知見を取り入れにくい環境かもしれません。一方、共感社会といった流れから見ると、「あをに工房」のように緻密で丁寧な「ものづくり」が、広告やマーケティングなどのプロ領域を上手く活用することで、一気にその存在価値が世の中に広まる可能性もあります。高齢者の方々の生産性をいかに高めていくかについては、まだまだ課題がありますが、私自身はその成長性に高いポテンシャルを感じています。

    ―枠組みを超えた連携が大切ということですね。

    そういう意味では、介護施設という括りを超えて地域で支え合う社会を創っていくことも欠かせません。それは、日本の原点回帰である村社会の実現です。介護施設は、「ここに行けば文化を教えてくれる」「子どもと一緒に過ごせる」「地域の人と交流できる」という家族を超えたコミュニティーの一部として育てていくことが私の使命だと考えています。

    ―一方、介護現場の足元では人手不足で職員の負担が大きいと聞いています。どのように向き合われていますか?

    今後、日本の人口は減少していく一方ですので、現場の生産性向上は必要不可欠です。その鍵はICTをいかに早く、上手く取り入れるかです。この業界に入ったからには、アナログの極みを許容しつつ、新しいICTを取り入れながら福祉業界を引っ張っていく役割が私にはあると考えています。

    デジタルの力で現状を理解することで介護業界は進化していく

    ―介護現場でのICTの活用事例と今後の展望を教えてください。

    業務効率化に加え、より適切に業務を行えるよう現状を把握するという目的で、デジタルツールを取り入れています。例えば、トラブル抑制のためにナースコールに取り入れているVカムという録画機能は、夜間に誰がどれくらいコールを鳴らすのかがデータ抽出でき、これまでは感覚で配置していた夜勤者数も、現状を元に適切な配置人数を割り出すことができます。新しいツールの活用を含め既定路線を変えることに抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、進化しても退化はありません。超高齢化社会が進む日本の未来にとって、介護の持続可能性は重要課題の一つであると考えています。介護現場の働く場の改善に向けて、今後もICTを積極的に取り入れ、新しい介護の形を創造し続けていきたいと思います。

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